新そよ風に乗って 〜焦心〜
時間的に行く前に会社には来ないことが分かって、どんな顔をして会えばいいのか不安だったので内心ホッとした。
高橋さん。行ってらっしゃいと心の中で11時半頃、呟きながら20日締めで書類の処理に追われながら、20時過ぎに中原さんと会社を出て駅に向かっている途中、高橋さんと女性を見掛けた昨日の交差点に差し掛かり、信号が青になって渡り終えたその場所こそ、昨日、高橋さんと女性が立っていた場所だった。
此処で、高橋さんと女性は……。
「どうかしたの?」
エッ……。
「あっ。い、いえ、何でもないです」
「今日は、忙しかったから疲れたんじゃない? 高橋さん。今、どの辺飛んでるんだろう? 機内だと、あまりよく眠れないから大変だよなあ」
高橋さん。眠れてるのかな?
「矢島さん。寂しいんじゃない?」
「えっ? そ、そんなことないですよ。嫌だ。中原さん。からかわないで下さい」
「そうなの? 何だ、てっきり……」
高橋さんが出張に行ったら、寂しいと思ってた。昨日までは……。
でも、今は……。
「それじゃ、お疲れ様」
「お疲れ様でした」
中原さんと別れてから頭の中は高橋さんでいっぱいになって、家に帰ってもあまりお腹が空かなかったので、そのままお風呂に入って湯船に浸かりながら高橋さんが家に来た時のことを思い出していた。
あの時は、嬉しかったな。高橋さんがロールキャベツをよそってくれて、それを食べて嬉しくて……。堪えきれなくなって、湯船に勢いよく顔を沈めた。
昨日と同じく、あまり眠れないまま休日の朝を迎え、コーヒーを飲みながらぼんやりテレビを観ていて、テレビの上に置いてあったガラスの置物に目がいき、埃が付いているのが気になった。
休みだし、掃除しなくちゃね。
そう思って掃除を始めたが、あちらこちらが気になりだして、休日にするいつもの掃除のつもりが、大々的に要らないものと要るものの区別をして、要らないものをゴミ袋にどんどん分別しながら入れていった。
< 49 / 247 >

この作品をシェア

pagetop