新そよ風に乗って ④ 〜焦心〜
「はい」
青木さんは、怪訝そうな顔で返事をしながら、運転席に座っている高橋さんを外から見下ろしている。
「矢島さん」
「は、はい」
高橋さんが、急にこっちを向いて名前を呼んだので、慌てて返事をした。
「もう1度聞く。さっき言ってたことは、本当なんだな?」
さっき言ってたこと?
ああ。青木さんが、彼氏じゃないってことだ。
「あっ、はい」
即答だった。本当に、違うんだもの。それこそ、誤解されたくない。
「分かった」
そう言うと高橋さんは、もう1度青木さんの方へ向き直った。
「君が、さっき言ってたことだが……。昼間、俺が言ったことを覚えてるか? 仕事中に、公私混同するなということを」
「はい。覚えてます」
青木さんも、高橋さんに即答して胸を張っている。
「だとしたら、敢えて言おう。俺は、少なくとも仕事中は公私の区別はきちんと付けてるつもりだ。だが、今は時間外で、プライベートな時間の行動まで君にとやかく言われる覚えはない」
「……」
青木さんは黙ったまま、高橋さんを見据えた。
「それでも、もし君が口外したいのであれば、構わない。すればいい」
「た、高橋さん」
何で、そんなこと言うの?
「それは、暗に認めるということですか?」
青木さんは高橋さんの言葉に反応して、聞き返している。
「だが、その前に、君が矢島さんにストーカーまがいの行為をしているということも忘れない方がいい。」
「どういう意味ですか?」
ストーカー……。
「君は、矢島さんの家をどうやって調べたんだ? 矢島さんは、君に教えた覚えはないと言っている。だとすると、君はどうやって矢島さんの家が此処だということを知った? 個人情報でもあり、社員の住所を調べるのに君はまだ管理職ではないから、社員の住所を知るには容易ではないはず。何らかの第三者の手を借りなければ、知り得ることは無理だろう。服務規程違反、プライバシーの侵害の観点から言って、この件に関して矢島さんのプライベートな時間でのこととはいえ、上司として、また会社として社員である矢島さんを守る義務がある」
「僕がストーカーとか……。それって、脅しですか?」
青木さんは、何か勘違いしているんだろうか? 高橋さんの言っていることに対して、的を射ていない返事をしている。
「脅し? 別に、脅しでもなんでもない。君の行為は、個人情報漏洩に関わること。会社として、目に余るということだ。もし、今後もこういった行為を継続するようであれば、会社としてしかるべき措置をとらなければならない。自分のやっていることが、理解出来るか? ふとした好奇心からでは、済まされなくなる」
「……」
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