温室の魔女は、今日も僕をアフタヌーンティーに誘う〜今宵、因縁の君と甘いワルツを〜

『はじめてのともだち』


 この世界には、三人の魔女がいる。
 (あか)の魔女、(しろ)の魔女、(くろ)の魔女。

 紅の魔女は気まぐれで、美しいものが大好きだという。そして、地の果てに住み、ワインを好むといわれている。

 白の魔女は心優しく、人が大好き。容姿もまるで天使のように美しく、ひっそりと街の中に紛れ込み、人の願いを叶えてくれるという。

 黒の魔女は、容姿も、住まいも、すべてが謎に包まれていた。ある人は鬼のように恐ろしいといい、またある人は天女のようだといった。

 魔女たちはそれぞれお互いの存在を知りながらも、ぶつかり合うことも干渉し合うこともなく穏やかに過ごしていた。

 ――そして、その少女は白の魔女として生まれた。

 白いワンピースを着て、華やかな容姿の美しい少女だ。

 魔女として生まれた少女は孤独だった。
 けれど白の魔女は人が好きで、人の笑顔が大好き。

 いつだったか、誰かの願いを叶えたことがきっかけで、少女は人々の願いを叶えるようになった。

 そうすると、みんなが喜んでくれるから。

 でも魔女であると明かすと、利用しようとしてきたり、あまり気分の良くない願いごとをしてくる人が増えて、少女は嘆いた。

 そして願いごとを叶えることを止めると、人々は去り、少女のことを忘れてしまった。

 白の魔女は、またひとりぼっちに逆戻りした。

 それから少女は、人が怖くなった。

 今はもう閉園した植物園の奥の温室で、少女はひとりきり。
 それが何年も続いたある日、少女は小さな少年と出会った。

『君は誰?』
『僕は――』

 少年は懐っこく、たまたま少女が魔法を使っていたところを見ると、瞳をキラキラと輝かせて寄ってきた。

『帰って。ここは人が来るところじゃないから』

 少女は人と関わることが怖くて、最初は少年を拒絶した。
 けれど、それでも少年はニコニコと、まるで雛鳥のようについてくる。

『魔女さん! あーそぼ!』

 少女は魔法で、少年の一日を覗いた。

 少年は、街の人からとても嫌われていた。
 理由はすぐにわかった。
 彼の両親がテロリストだったのだ。

『……あなたと私は、今日からともだち』
『ともだち?』

 少女は嫌われ者の少年を哀れに思い、ともだちになることにした。

『ともだち!』

 いつしか少女は少年のことが大好きになり、少年もまた少女のことを大好きになった。

 あるとき少年は、少女に赤い糸をくれた。

『これはなに?』
『僕たち、運命(うんめい)なんだよ』
『運命?』
『うん! 絶対どこかで会うはずだった運命! これがあれば離れていても大丈夫。ずっと君のこと忘れない』

 少年は幼く、純粋で、澄んだ瞳をしていた。

 少女は人からなにかをもらったことがなく、とても嬉しかった。少女は、その赤い糸を宝物にした。

 どんなときもずっと持っていたくて、魔法で糸をケープにして、ずっと身に付けるようになった。

 ――しかし、次の日から少年は来なくなった。

 少年のことが心配になった少女が、魔法で少年を覗いてみると、ずっと家の中で息を潜めるようにしてなにかに怯えるように過ごしていた。

 きっと、街の人になにかをされたのだ。家を出ることができなくなるくらいに恐ろしい目に遭ったのだ。
『大丈夫……私が守るよ』
 少女は街の人が少年を襲おうとするたび、魔法で助け続けた。たとえ少年がもう、ここにはやってこないとしても。

 そんなとき、少年の兄だと名乗る青年が少女に願いごとをしにやってきた。
 弟を助けるために力を貸してほしいと。

 少女は頷いた。
 自分の力では足りなかったから、黒の魔女に助けを求め、すべてをかけて少年を助けた。

 これで、また会える。前のように温室で。

 けれど、少年の兄は、もう一つ少女に願いごとをした。
『少年の記憶を消してほしい』と――。

 それは、少女との思い出も、すべてが消えることになるということ。
 少年を覚えているのは、少女だけになるということ。二人はまた、他人になってしまうということ……。

『……わかった』
 
 悲しかったけれど、少女は頷いた。すべては少年を守るため。
『大丈夫。私たちは運命なんだもん』
 少女はケープに涙を落としながらも、魔法を発動させた。
『これで、もう大丈夫だよね』

 それなのに、神様というものはあまりにも残酷な人で。
 少年にさらにひどい運命を突きつけた。

 少女と少年の兄が起こしたその事件で、少年は不運にもタワーの倒壊に巻き込まれて死んだ。

 少年の兄は、タワーと共にもう消えている。遺されたのは、少女たったひとりだった。

 少女は少年の落ちていった穴に叫ぶ。
『お願い! 戻ってきて!』

 少年は、昏い穴の中。少女がどれだけ呼びかけても、声が返ってくることはなかった。

 少女はもう一度、黒の魔女に助けを求めた。

『お願い、助けて』
『……ならば次の対価は、君の足。私から逃げられないよう、お前の足をもらうことにしよう』
『……いいよ』

 少女は迷うことなく頷いた。

 そうして少年は少女の記憶を失い、息を吹き返した。

 そして、少女はまた一人になった。
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