好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「……お嬢様?」


 侯爵家に嫁いだはずのアリスが夫人の横に座っている。

 しかし、レヴィが驚いたことはそれだけではなかった。

 あれほど美しく、可憐だったアリスが見る影もない。レヴィは愕然としてしまった。

 虚ろな瞳、顔色は青白く、表情から彼女の感情が全くうかがえない。
 艷やかだった髪の毛も、しっとりと潤いのある肌も、鮮やかだった頬や唇も、すべてが失われてしまっている。
 アリスは心ここにあらずといった様子で、伯爵家に着いたことすら気づいていないようだった。


「レヴィ、お願い。アリスを部屋に運んでくれる?」

「もちろんです、奥様。しかし……」


 アリスに一体何があったのだろう?
 疑問の言葉をグッと飲み込み、レヴィはアリスを抱き上げる。


(軽い……)


 最後にアリスを抱き上げたとき――――アリスの婚約が決まった夜よりもずっと、ずっと。ショックのあまり、レヴィは目頭が熱くなる。


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