好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
「レ、ヴィ?」


 そのとき、ようやく状況が飲み込めたのだろう。アリスがレヴィの名前を呼び、彼の顔をまじまじと見つめる。


「レヴィ……!」


 途端に流れ出す大粒の涙。アリスはレヴィの身体に取り縋った。


「お嬢様!」


 レヴィの胸が強く軋む。怒りのあまり、視界が真っ赤に染まって見えた。


(何故だ? どうしてこんなことになっている?)


 結婚して以降、アリスは幸せではなかったのだろうか?
 ずっと一人で苦しんでいたのだろうか?

 分からない――――レヴィにはどうしても分かりたくない。


 幸せになってほしいと願っていた。誰よりも、何よりも幸せになってほしいと。
 それなのに、アリスはとても悲しそうに涙をポロポロと流している。見ているだけで発狂しそうだった。


(許さない)


 ふつふつと燃え上がる怒りを必死にこらえ、レヴィはアリスを優しく抱き締める。


「レヴィ……」


 アリスが何度も彼の名を呼ぶ。悲しげに、嬉しげに。レヴィの心が切なく軋んだ。



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