もう恋なんてしないと決めていたのに、天才外科医に赤ちゃんごと溺愛されました
 繰り返し浮かぶ疑問はキスで塗りつぶされ、思考の彼方に追いやられる。

 私が彼にキスをされたのは初めてではなかった。

 偽装恋愛を本物に見せるため、軽く唇を触れ合わせただけのものではあったけれど、キスはキスだ。

 そのときの恥ずかしいようなうれしいような、胸の内がくすぐったくなる不思議な気持ちをまだ覚えている。

 だけど今、彼が私に与えるキスは以前感じたどの感情も呼び起こさない。

 私が今感じているのは戸惑いと困惑。そして奇妙な危機感だ。

 早く彼を拒んでここから逃げ出さないと、取り返しのつかないことになる気がする。

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