さよならの続き
Prologue
頬を撫でる風は新鮮な春の匂いがした。
それはいたずらに桜の枝を揺らし、しがみついていた花が舞い落ちる。
夜はまだ冷え込むけど、日中の陽射しはずいぶん暖かい。
散歩をするにはちょうどいい時季だ。

有名大学の正門に続く長い桜並木の通りは、学生だけでなく子供からお年寄りまで見にくる人気スポット。
車道ではないため、ゆっくりと花見を楽しむことができる。
たけど、今年は例年よりも桜の開花が早かったらしい。
もう満開の時期は過ぎていて、地面は花びらで白く染まっている。
見物客ももうまばらだ。

「ちょっと寂しいけどきれいだね」

同じ気持ちで見ているだろうと思いながら、隣の彼に微笑みかける。
だけど、桜の枝を見上げる長身の彼の横顔は笑っていない。
風が彼の無造作な前髪を揺らし、花びらが彼の頬を撫でて落ちる。
それでも彼の瞳は少しも揺れず、その目には何も映っていないようにすら感じた。
急に不安に駆られる。

「…航平?」

ゆっくりと私に目を向けた彼は、表情のないまま口を開いた――……


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