おとなり契約結婚〜幼馴染の小児科医が推しを盾に結婚を迫ってくる件〜
引っ越し当日は朝から大忙しだった。
業者を雇わず自力で搬入出を行うことになったため、レンタカーショップから軽トラックを借りてきた。お世話になっている隣家の一大事とあって、加賀谷家の面々も引っ越しを手伝う。
家具や重量物は男性陣が積み下ろしを担当し、女性陣は小物の梱包と掃除を担当する。
「千春ちゃんは私と細々した物の箱詰めを手伝ってちょうだい」
「はい。わかりました」
「ちぃ!疲れたらちゃんと休憩して、適度に水分補給をするんだぞ!」
「もう!わかってるってば!」
庭から飛んできた香月の小言を聞いて、珠江は苦笑していた。
「我が息子ながら本当に口うるさいわね。よく嫌にならないわね、千春ちゃん」
「もう慣れちゃいました〜」
千春はリビング、晶子は和室、珠江は夫婦の寝室と、散り散りになり荷造りを開始していく。
千春は空の段ボールの中に、飾り棚の中に置いてあった物を手際よく詰めていった。棚が空っぽになると謎の達成感が生まれる。これが片付けハイというやつか。
「おばさーん!テレビボードの引き出しの中身もダンボールに入れちゃっていいですか?」
「おねがーい!」
珠江からの了解をもらった千春は引き出しを外した。この方が作業しやすいと思ったからだ。引き出しを床に置き、歯抜けになった棚の奥をなんとはなしに覗き込むと、上の段から何かがずり落ちてきた。