眠れる森の王子は人魚姫に恋をした
残された業務を終わらせたので定時より少し早いが帰宅の為、エレベーターで1階へと向う。

『ポーーーン』

1階への到着を告げる音と共にエレベーターの扉が左右に開く。

『ドサッ』

 えっ? 

 な…何っ?

扉が開かれると黒いコートを着た男性が倒れこんできたのだ。

キョロキョロと周りを見るが既に社員は帰宅しているため人はいない。
助けを求める人もいないのでそのまま男性を支え続けた。

 …どうしたらいいの??

「だ、大丈夫ですか?」

「……31階の俺の部屋に。」

「…あ、はい。 31階ですね、わかりました。」

エレベーターを降りようとしていたのだが、男性の言われるがまま31階のボタンを押す。
利用者のいないエレベーターは今までいた社員食堂のある5階を一瞬で突き抜けて31階で止まる。

「…31階につきました。お部屋はどちらですか?」

「……こっちだ。」

男性を支えながら彼が向けた視線の方へと一緒に進んだ。

「……ここでいい。」

たどり着いたのは【副社長室】とプレートの貼られた部屋だった。

 …この人、副社長なの?

どこから見ても彼は30代に見える。副社長を名乗るには若過ぎる気がした。

実は社員食堂のスタッフは全員、業務委託された別の会社から派遣されてきていたのでP・Kメディカルの役員を覚えているスタッフは程んどいなかった。

 副社長の秘書の方かしら?

首から下げたIDカードを扉にタッチしロックを解除して中に入ったが、そのまま膝をついて崩れ落ちてしまう。

「もう少し頑張ってください。」

室内を見渡すと応接セットが見えたので、そこまで男性を支えながら連れて行き横に寝かせた。
目的地へついた安心感なのか、彼はそのままソファで横になると眠ってしまった。

ここまでコートや手袋で包まれていたので気づかなかったが、そーっと男性の額に手を当ててみるとかなりの熱があるようだった。

 すごい熱…。

 そうだ!

 ごめんなさい!

 ちょっと借ります!

先ほど扉を開けるのに使用したIDカードを男性の首から外すと、副社長室を出て社員食堂のある5階へと戻った。
文も同じようにIDとなるカードを首から下げているが、おそらく文のカードではセキュリティ上、先ほどの部屋に入ることはできない。
エレベーターの中で借りたカードを見ると、先ほどの男性の写真と『EVP:市ノ川 航希(いちのかわ こうき)』と書かれていた。高校の卒業と共に児童養護施設を出て、今の仕事を始めた文はEVP(エグゼクティブヴァイスプレジデント)の表記になじみがなく、なんの役職なのかピンときていなかった。

 エレベーターで出会ったからエレベーターパーソンね。

なんて一人で頭に浮かべ、クスクス笑う程度だった。
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