眠れる森の王子は人魚姫に恋をした
「ところで…。ショーとは何のショーを見に行くんですか?」
どこへ向かっているのかわからない車の中でお父さんに質問した。
「実は航希くんが文の為に用意してたショーなんだ。だからきっと楽しんでくれると思うよ。」
「航希がですか?」
航希とは全く連絡を取っていないのに…。一体何を考えているのだろうか…。もし、航希と別れた後も会っているのが例の手紙の人にバレてしまったら、また、何かされてしまうのでは…。
「お父さん、私、彼がいるならば一緒にショーには行けません。」
「彼の事はもう好きではない?」
「はぃ…。好きではありません。会いたくもないです。」
お父さんはじーっと私の顔を見つめる。
「文の表情を見る限り、航希くんを嫌っているようには見ないんだけどなぁ~。どちらかというと好きで仕方がないって顔をしている。」
「それでも…、私が彼と一緒にいるところを見られるとまずいんです!!」
真剣な顔で訴えると困った顔をする。
「誰に見られると困るんだい?一番大切なのは文と航希くんの気持ちだと思うがね~。」
お父さんは窓の外を見ながらつも明るい雰囲気に戻る。
「…それはそうなんですが…。」
「ほら、でも目的地に着いちゃったし、キャストも揃ったみたいだから~。これからの事はこのあとゆっくり二人で話し合うべきだね。」
大きな日本家屋の門を車のまま突き進むとまるで旅館の様な入り口が待っていた。
「ここの料亭は1度だけ香澄と一緒に来たことがあるんだ。」
そう言うと車から先に降りて手を差し伸べ、エスコートをしてくれた。
「若いころの香澄と一緒にいるみたいだ。」
お父さんは嬉しそうに頬を上げ口元を緩ませていた。
「いらっしゃいませ、葛城様。市ノ川様より伺っております。どうぞ、こちらでございます。」
着物を着た品の良さそうな女将が挨拶に出てきた。顔を見るなり名前が出てくるのは、それだけこの店を利用しているのだろう。
「女将、今日はすまないが少し騒がしくなりそうだ。」
「市ノ川様より伺っておりますので、本日は離れをご用意させていただいております。母屋にはあまり響きませんのでご安心ください。」
そう言うと女将は母屋を突っ切り、渡り廊下を通って離れの部屋まで案内してくれた。途中見かけた中庭には枯山水や鹿威しがありいかにも高級料亭の雰囲気を醸し出していた。離れの入り口からは大きな池が見え優雅に鯉が泳いでいる。
「失礼致します。」
女将はそう言うと膝をついてゆっくりと襖を開け、戸が完全に開くと丁寧に頭を下げる。
「葛城様がお見えになりました。」
開かれた襖の向こうには振袖の女性とその向かいには航希が座っていた。そして、女性と航希それぞれ両側にご両親と思われる人物がいる。女将の一声に部屋にいた全員がこちらに注目していた。
これって、お見合いなのでは…。
「矢部議員、市ノ川社長、ご無沙汰しております。パーティー依頼ですね。それから航希くん、娘を連れてきたよ。」
「将文さん、ありがとうございます。」
矢部議員って時々TVで見かける国会議員の人!?
市ノ川社長ってことは航希のお父さん!?
お父さんの陰に隠れていた私を見るなり着物の女性が声を上げた。
「はっ!?なんであんたがここにっ!!!」
驚きのあまりつい声に出てしまったようだが、自分の失言に直ぐに気づき黙り込む。
「芙美の知り合いか?」
「…いいえ。」
その様子をみて航希はニヤリと口角を上げた。彼があの顔をする時は、いつも何か企んでいるときだった。
よく見ると着物の女性は食堂で何度か見かけたことのある『矢部芙美』であった。
たしか彼女は、黒田さんが病気の航希を看病した私と最初に勘違いしていた人…。
矢部…ってもしかして彼女のお父さんって、ここにいる矢部議員!?
室内にいる大物過ぎる人物の集まりにじんわりと汗をかく。
お父さんはショーを見に来たと言っていたが、芸者さんでも呼んでいるのだろうか?
いくら芸者さんをここに呼んでいるとしても、この感じからすると、どこからどう見ても私たちはお見合いの場にやってきた部外者のようだった。
「航希くん、これは一体どういうことだね?」
矢部議員が航希にため息交じりに尋ねた。
「この話を進めるにあたり矢部議員のお耳に入れておきたいことがございまして…。もうすぐ全員到着する予定です。少しだけお時間をください。」
市ノ川社長は息子の行動に対し特に口を挟まず見守る姿勢を見せていた。
暫くすると先ほどの女将がやってきて、『お連れ様がお見えになりました。』と襖を開けた。
「えっ!! 真希ちゃん!! なんで!?」
部屋に通された人物をみて今度は私が驚いた。真希ちゃんとその彼の健くん、西田くんまでいた。
「これで全員揃ったのか?」
「いいえ、あと一人です。」
どうして真希ちゃんたちがここにいるのか航希に聞きたいが距離があるので聞ける雰囲気ではない。航希もお父さんも視線を向けると、にっこりと笑顔を返すだけだった。
「失礼します。」
次に聞こえたのは女将ではなく男性の声だった。入ってきたのは航希の秘書である黒田さんと初めて見る男性だった。
「中村。何故お前がここに?」
「矢部議員が至急こちらに来るようにと伝言を受けたので…。」
どうやら、矢部議員と顔見知りの様だった。
「さて、やっと全員揃いました。」
そう言うと航希は饒舌に話始めた。
どこへ向かっているのかわからない車の中でお父さんに質問した。
「実は航希くんが文の為に用意してたショーなんだ。だからきっと楽しんでくれると思うよ。」
「航希がですか?」
航希とは全く連絡を取っていないのに…。一体何を考えているのだろうか…。もし、航希と別れた後も会っているのが例の手紙の人にバレてしまったら、また、何かされてしまうのでは…。
「お父さん、私、彼がいるならば一緒にショーには行けません。」
「彼の事はもう好きではない?」
「はぃ…。好きではありません。会いたくもないです。」
お父さんはじーっと私の顔を見つめる。
「文の表情を見る限り、航希くんを嫌っているようには見ないんだけどなぁ~。どちらかというと好きで仕方がないって顔をしている。」
「それでも…、私が彼と一緒にいるところを見られるとまずいんです!!」
真剣な顔で訴えると困った顔をする。
「誰に見られると困るんだい?一番大切なのは文と航希くんの気持ちだと思うがね~。」
お父さんは窓の外を見ながらつも明るい雰囲気に戻る。
「…それはそうなんですが…。」
「ほら、でも目的地に着いちゃったし、キャストも揃ったみたいだから~。これからの事はこのあとゆっくり二人で話し合うべきだね。」
大きな日本家屋の門を車のまま突き進むとまるで旅館の様な入り口が待っていた。
「ここの料亭は1度だけ香澄と一緒に来たことがあるんだ。」
そう言うと車から先に降りて手を差し伸べ、エスコートをしてくれた。
「若いころの香澄と一緒にいるみたいだ。」
お父さんは嬉しそうに頬を上げ口元を緩ませていた。
「いらっしゃいませ、葛城様。市ノ川様より伺っております。どうぞ、こちらでございます。」
着物を着た品の良さそうな女将が挨拶に出てきた。顔を見るなり名前が出てくるのは、それだけこの店を利用しているのだろう。
「女将、今日はすまないが少し騒がしくなりそうだ。」
「市ノ川様より伺っておりますので、本日は離れをご用意させていただいております。母屋にはあまり響きませんのでご安心ください。」
そう言うと女将は母屋を突っ切り、渡り廊下を通って離れの部屋まで案内してくれた。途中見かけた中庭には枯山水や鹿威しがありいかにも高級料亭の雰囲気を醸し出していた。離れの入り口からは大きな池が見え優雅に鯉が泳いでいる。
「失礼致します。」
女将はそう言うと膝をついてゆっくりと襖を開け、戸が完全に開くと丁寧に頭を下げる。
「葛城様がお見えになりました。」
開かれた襖の向こうには振袖の女性とその向かいには航希が座っていた。そして、女性と航希それぞれ両側にご両親と思われる人物がいる。女将の一声に部屋にいた全員がこちらに注目していた。
これって、お見合いなのでは…。
「矢部議員、市ノ川社長、ご無沙汰しております。パーティー依頼ですね。それから航希くん、娘を連れてきたよ。」
「将文さん、ありがとうございます。」
矢部議員って時々TVで見かける国会議員の人!?
市ノ川社長ってことは航希のお父さん!?
お父さんの陰に隠れていた私を見るなり着物の女性が声を上げた。
「はっ!?なんであんたがここにっ!!!」
驚きのあまりつい声に出てしまったようだが、自分の失言に直ぐに気づき黙り込む。
「芙美の知り合いか?」
「…いいえ。」
その様子をみて航希はニヤリと口角を上げた。彼があの顔をする時は、いつも何か企んでいるときだった。
よく見ると着物の女性は食堂で何度か見かけたことのある『矢部芙美』であった。
たしか彼女は、黒田さんが病気の航希を看病した私と最初に勘違いしていた人…。
矢部…ってもしかして彼女のお父さんって、ここにいる矢部議員!?
室内にいる大物過ぎる人物の集まりにじんわりと汗をかく。
お父さんはショーを見に来たと言っていたが、芸者さんでも呼んでいるのだろうか?
いくら芸者さんをここに呼んでいるとしても、この感じからすると、どこからどう見ても私たちはお見合いの場にやってきた部外者のようだった。
「航希くん、これは一体どういうことだね?」
矢部議員が航希にため息交じりに尋ねた。
「この話を進めるにあたり矢部議員のお耳に入れておきたいことがございまして…。もうすぐ全員到着する予定です。少しだけお時間をください。」
市ノ川社長は息子の行動に対し特に口を挟まず見守る姿勢を見せていた。
暫くすると先ほどの女将がやってきて、『お連れ様がお見えになりました。』と襖を開けた。
「えっ!! 真希ちゃん!! なんで!?」
部屋に通された人物をみて今度は私が驚いた。真希ちゃんとその彼の健くん、西田くんまでいた。
「これで全員揃ったのか?」
「いいえ、あと一人です。」
どうして真希ちゃんたちがここにいるのか航希に聞きたいが距離があるので聞ける雰囲気ではない。航希もお父さんも視線を向けると、にっこりと笑顔を返すだけだった。
「失礼します。」
次に聞こえたのは女将ではなく男性の声だった。入ってきたのは航希の秘書である黒田さんと初めて見る男性だった。
「中村。何故お前がここに?」
「矢部議員が至急こちらに来るようにと伝言を受けたので…。」
どうやら、矢部議員と顔見知りの様だった。
「さて、やっと全員揃いました。」
そう言うと航希は饒舌に話始めた。