網川君の彼女は、お値段の張る“ユーリョーブッケン”。
「嫌?」


「嫌。」



「何と引き換えにならいい?」


「何と引き換えでも嫌」


物で釣ろうとしたって、嫌なものは嫌。


切るよりもぶつかるよりも、じわじわと染み渡る痛みは私が一番嫌いなもの。



少し糖度を含んだ声の春夜に、頑なに拒否し続ける私。



「すごいわがままなんだけど」


「それで結構。痛いのは嫌」


しばらく見つめあった後、説得を諦めたのか春夜は一度口を閉じた。





――と思ったけど。



私の思い違いだった。




――ふっと小さく笑った春夜。


その姿に、得体の知れない恐怖を感じる。


「じゃあこうするか、沙月」


――さっきとは、空気が違う。
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