網川君の彼女は、お値段の張る“ユーリョーブッケン”。
「・・・先ほど、廊下を走っていた生徒がいましたが」
麗しい人が口を開けば、その声はまた艶っぽいもので。
クラスはしんと静まった。
「あっ、そこの清水沙月でーす」
晄の声だけが響く。
・・・そして。
「あなたですか」
はい、明らかに私です。
足元にカバン、机の上には筆箱さえ出ていない状態で疑うなと言うほうが無理です。
「・・・はい」
――目があった。
いつのまにか荒くなっていた呼吸は静まっていて、普通に会話ができるはず・・・なのに、なんでだろう。
息が、しにくい。