約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される
 こんなわたしでも好意を持たれれば、相手を気にかけてしまう。こういう身体なので気持ちに応えるのは無理だけど、意識はする。

 おぼんの縁をぐっと握った。

「あっ、いけない! 四鬼さんは麦茶は飲まないですよね? お母さん用のとっておきの紅茶があったのでそれを淹れてきます!」

「桜子ちゃん! 待って、話を聞いて」

 ひとまずキッチンへ引っ込もう。ざわつく心を沈めなくてはいけない。このまま話をすると泣いてしまいそうだった。

「おい」

 後を追いかけてきたのは涼くん。

「俺には麦茶で四鬼千秋は紅茶かよ」

 文句を言いながら、こぼそうとしていた麦茶を手にする。涙をこらえるわたしは目を合わせず、涼くんが2杯飲み干す音を黙って聞く。

「……っぷ。四鬼千秋をかばうつもりは全くないが、流石にお前をからかう為だけに転校はしねぇだろ。前にされた悪戯とは違う、大掛かり過ぎる」

「好きだと言われてアタフタするのを見たいだけかもしれないじゃない。四鬼さんは凄いお金持ちでドッキリも壮大なんだよ」

「仮にそうだとしたら、ぶっ飛ばしてやるだけだ。お前にドッキリ仕掛けた奴みたいに」

 涼くんのフォローは有り難かったが、荒んだ心理状態だと素直に受け止められない。

 戸棚の奥からお母さんが大事に飲んでいる茶葉を出し、お湯を沸かす。ティーカップも来客用を準備する。

「はぁ、ひねくれた性格だな。今日はあいつを連れて帰る。お前がそれを飲めよな」

 返事をしないでお茶の支度をするわたしの頭をぽんと撫で、出ていった。

 キッチンには薔薇の花束が残される。
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