約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される
 警戒してベッドに入ろうとしない胸の内をさらり、言い当てる。

「四鬼さんからわたしの事を聞いてるんですか?」

「えぇ、千秋君は浅見さんと結婚したいそうですね」

 先生までこともなげに語るので頭が痛い。

「わたしが最初ついてしまった噓ですけど、
ここまで大きくなるなんて思っても見ませんでした」

「噓?」

 傾げる様子からあらましを全て聞かされてはいないみたい。丁寧に説明したところで事態が収まると期待出来ないものの、わたしが困惑する理由を述べた。

 聞き上手かつ引き出し上手な先生に話すうち、自分がどんな環境に置かれているのか客観的に見えてくる。

「なるほど。浅見さんは千秋君に好かれる理由が分からないのですね」

「分かるわけありません! 出会って間もないし、四鬼さんみたいな有名人がわたしなんかを好きになるはずない」

「落ち着いて。浅見さんの気持ちはよく伝わりますよ。けれど、わたしなんかと卑下するのはいけません」

 興奮して早口になるのを先生は穏やかに制する。わたしをベッドの縁へ座らせた。

「浅見さんは言霊はご存知ですか?」

「言霊?」

「はい、言霊とは発した通りの結果が現れる力です。浅見さんは千秋君を彼氏だと言ったのでしょう?」

「言いましたけど、言った事が現実になるなんてマンガみたいな効果は信じられません。わたしがついた嘘を本当は怒ってるとかですかね? それとも優しいから噓に付き合ってくれてるとか? どちらだと思います?」

「どちらも現実的じゃありませんね」

「え……じゃあ?」

「やはり言霊です。浅見さんと千秋君は奇跡によって現代まで繋がっているのでしょう」
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