約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される
「とんでもない、鬼姫様は唯一無二です。それで覚醒なさったのでしょうか?」

 先生は私を唯一無二とは思っていない。表情が見えないと分かりやすい。

「残念ながらまだよ。でも直にひとつになれる」

 私は言い切り、わたしもそうなるであろうと予感する。むしろ統合されるべきとさえ思えた。

「ーーそうですか。僕は浅見さんとお話したいのですが代わって頂いても?」

「いいわ、そろそろ疲れてきたし。四鬼様に早く迎えを寄越してね」

「言われなくとも早急に」

 不意にスイッチが切り替わり、力が抜けて蹲る。すかさず四鬼さんがスーツの男性を拘束し、こちらを心配した。

「大丈夫? 桜子ちゃん」

「え、あっ、はい。なんとか」

 身体がとてつもなくダルい。自由を奪われてる間に体力がかなり消費されている。

「あぁ、良かった。君に大事があれば大変だ」

 言いつつ、よろけるわたしを支えてくれない。触れてこない。

「わたし、どうしちゃったんでしょうか? 鬼姫って? 四鬼さん達は知ってるんですよね?」

 説明してと言いつつ、胸に手を当てて尋ねれば答えを得られる気もした。そうしないのは四鬼さんから聞きたいという建前で、本音は知ってしまうのが怖いから。

「君の中に鬼姫の存在を確認した以上、ここからは当主の管轄となる。ごめん、僕からは何も言えない。当主を含めた席で話をしよう」

「血がーー」

 殴られた際の出血を気遣うと四鬼さんは明らかに顔を背け、誤魔化すみたいに先生と会話する。
 わたしはポツンと転がったままの携帯電話を拾う。充電がなくなり電源が落ちているが、これは確かにわたしのものだ。

 それから柊先生が車で迎えにくるまで、わたし達は沈黙したのだった。
< 132 / 273 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop