約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される
 四鬼さんがわたしの秘密を知っていた、自分も同じと言ってきたこと。強盗未遂の犯人に再び襲われたが男性の姿であったこと。わたしの中に鬼姫がいること。
 涼くんへ相談したい事柄は沢山なのに、言う気が失せ流れていく。




 シャワーを浴び終えて心境までさっぱりしないものの、帽子を取りに戻る。置き去りにしたそれは寂しそうに待っていて、植木から丁寧に外す。ワンピースもお母さんに頼んでクリーニングして貰おう。

 ご馳走されたクレープを落とし、腰が抜け服を汚してしまったが、鬼姫を確認して以降、四鬼さんの様子はおかしくなったように思える。
 話し掛けられる雰囲気ではないとはいえ、お詫びもしないままなのは心苦しい。

(四鬼さんに謝らないと)

 帽子を抱き、決心する。と、そこへ横槍が入った。

「おい」

 涼くんの呼び掛けは上から降ってきた。彼は2階の部屋からこちらを見下ろして、遠距離でも不機嫌さが伺える。

「それ、お前の? 似合わないだろ」

 帽子を顎でさす。

「……」

「無視かよ。今日、勝手に帰ったりしてどういうつもりだ? 俺が怒られるんだが? 放課後は何してた?」

「……」

「おい! 聞こえるだろ? 不貞腐れてるんじゃねぇよ!」
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