約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される
 涼くんはわたしが来るまで部屋の外で待っていた。麦茶とお菓子を乗せたトレイを寄越せと顎で示し、わたしにドアを開けさせる。

「中に入ってくれて良かったのに」

「人の部屋に勝手に入ったりしねぇよ。あとドアは開けたままにしとけよ」

「なんで? 暑いとか?」

「それもあるけど、甘ったるいんだよ、この部屋」

「芳香剤は使ってないけど?」

「これは芳香剤の匂いじゃない。香水? 花みたいな匂い。お前、分からないのか?」

 テーブルへトレイを雑に置き、窓を全開にする。風通しが良くなり逆に肌寒い。

「自分の部屋だからかな、分からない。でも、涼くんが嫌なら気をつけるようにするね」

「別に嫌とは言ってないだろーーって、俺たち、毎回こんなことばっかり言い合ってないか?」

「そうかな? わたしは涼くんに迷惑掛けたくないし、悪い部分があれば直したいだけ」

「……」

 涼くんが座るクッションをセットし、麦茶やお菓子を並べる。

 スナック菓子があれば良かったが、わたしは食べないので買い置きは無かった。チョコチップクッキーはそれこそ甘く、嫌がるかもしれない。
 今度お母さんと買い物に行ったら涼くんの好きなお菓子も買おう。サッカー選手のカードが付いたポテトチップス、まだ好きかな。

「俺の機嫌取りに必死だな」

 少しでも快適に過ごして貰おうと巡らすわたしに冷たい声が浴びせられた。

「血の為だろうけど惨めにならねぇ? お前、逆らえないだろ?」

 逆らえないって何? でも涼くんが怒ってるので先ずは謝らないと。

「わたしは、そんなーーごめんなさい」

 携帯電話の件がよほど腹に据えかねるのだ。とりあえず謝罪側に回る。

「俺を怒らせないよう顔色ばっかり伺ってるくせ、携帯に何度も掛けてたのはスルーかよ?」
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