約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される
「今、何時ですか? 四鬼さん、授業は出なくて大丈夫ですか?」

 言いつつ、身は委ねたまま。四鬼さんのシャツに涙が次から次へと染み込む。


「僕は桜子ちゃんがいちばん。大事な人が泣いてるのに何処にも行かないよ」

 背中を擦られれば、ますます弱音が漏れてしまう。

「なんて言いながら別の子と仲良くしたり、付き合ったりするんじゃないですか? 涼くんもわたしが好きだって言った次の日には高橋さんとーーっ」

 頭を振る。言葉にすらしたくない。

「舌の根が乾かぬうちにってやつ、なら桜子ちゃんは僕と正式に付き合えばいい。夏目君を取られて寂しいんでしょう? 慰めてあげる」

「わたしは別にそういうつもりで言ったんじゃなくて!」

「慰めてあげるだけだよ。キスはしたいけど我慢する。それ以上も当然したいけど我慢する。君がいいよって言ってくれるまでお預けでいい。だから付き合おう?」

「付き合うって、そういうのじゃないと思いますけど」

「どういうのだっていいじゃん。彼氏なら彼女を甘やかして当然、彼女が彼氏に甘えるのは当たり前になる。ね? 付き合おう?」

 居心地がいい。離れなきゃいけないのに離れられないな。このまま甘やかされてみたくなる。

「桜子ちゃん、僕と付き合ってください」

 耳元で囁かれ、顔を上げた。
 キレイで華やかで芸能人みたいな四鬼さん。一族の命でわたしと結婚する節は否定しきれないが、同じ鬼であり、良き理解者となってくれるはず。

「わたしでいいんですか?」

「君しかいらないよ。君じゃなきゃ駄目だ」

 今すぐは無理でも四鬼さんを好きになりたい。好きになれそう。きっとそれがいい。
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