約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される
「もしもし?」

 何度目かのコールでお母さんは通話に応じた。

「ーーあっ、お母さん? 仕事中だよね、ごめん。柊先生の携帯携帯から掛けてるんだけど、お祖母ちゃんの家の電話番号を教えてくれない?」

「……はぁ?」

 番号の説明をしたものの怪訝な声だ。まぁ、怒らせてしまった心当たりはある。

「今日は病院から学校へ直行しちゃって怒ってるんでしょ? ごめんなさい。帰ったらーー」

「失礼ですがどちら様です? 番号が間違ってませんか?」

 弁解を遮られ、告げられた。

「え? お母さん、わたし桜子だよ?」

「娘の桜子でしたら学校へ行ってます。妙なイタズラ電話はよして下さい。失礼しますね!」

 そして、一方的に切られてしまう。何が起こったのか理解出来ない。けれどお母さんの他人行儀は演技じゃなさそうだ。

「はは、お母さんにどちら様って言われてしまいました。桜子は学校に行ってると言ってたんですが、どういう事なんでしょう?」

 次は内線電話が鳴って柊先生が出る。

「はいーー会議ですか? いえ、忙しいというか宿泊訓練に不参加の生徒をみてまして。え? 誰って、1年生の浅見桜子さんですが? は?」

 先生の受け答えに動悸がした。不安になり四鬼さんをみると側にきて手を握ってくれる。

「分かりました。すぐ行きます」

 会話が噛み合っていなそうだったが、先生は受話器を静かに置く。

「……浅見桜子さんは宿泊訓練に参加しているそうです。それからその訓練でトラブルがあったらしく、これから職員会議を開かれます」

 その報告に後頭部を鈍器で殴られたような衝撃を受け、痛みからぽろりと呟きが溢れた。

「鬼は、姿を変えられる?」

 核心を突く言葉であったのか、四鬼さんが強張り、先生も電話を見つめたままだった。
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