約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される
 お祖母ちゃんの話題を出すと2人の顔付きが変わった。彼等ははっと何やら思い出した風に弾かれる。

「桜子ちゃんのお祖母様って失礼だけどご存命だよね?」

「はい。お祖母ちゃんは同年代よりずっと元気で若々しいくらいです。観劇が趣味で贔屓の役者さんの追っかけをしたり、お庭で花を育ててますよ」

 そうだ、転校する前にお祖母ちゃんにこの制服姿を見せたい。わたしが葉月高校へ入学決めた時、とても喜んでくれたあの笑顔に会いたいーーあの笑顔?

 あれ、お祖母ちゃんの顔にぼんやり霞がかかり思い出せない。

「不躾なお願いでごめん。今から桜子ちゃんのお祖母様に会えないかな?」

「え、今からですか? そんな急に言われても」

「お願い、桜子ちゃん」

 わたしだけならともかく四鬼さんが来たら、お祖母ちゃんをびっくりさせてしまう。先に連絡しておこう。

「じゃあ、電話してもいいですか?」

 四鬼さんに急かされ、携帯電話を取り出す。ひとまずアドレスからお祖母ちゃんの自宅の番号を出そうとして、指が止まった。

「どうかしましたか? 浅見さん」

「いや、あの、お祖母ちゃんの番号が見当たらなくて。おかしいな、間違って消しちゃったのかな? それとも盗まれていた間に消されたとか?」

 直近で話したのはお祖母ちゃんの姿を模した鬼に襲われた日。あの日、お祖母ちゃんは芝居を観に行っていたと言ってーーあぁ、どうしてだろう。顔だけじゃなく声まで思い出せない。
 あと電波が圏外になっている。

「電波が弱いみたいで圏外になってます」

 言うと、柊先生が自分の電話を差し出してきた。

「そちらを使ってください。と、ひとつ引っ掛かっていたのですが、鬼について教えた際、随分と飲み込みが早かったように感じられました。抵抗感がないというか。転校に関してもです」

「それは鬼姫の知識があるからですね。鬼姫を吸収したら彼女の持っていた知識や経験を共有できるようになりました」

「……」

「先生? どうかされましたか? あっ、お祖母ちゃんの番号分からなくなってしまったので家族に聞いてみます。携帯借りますね」

 お母さんならこの時間は電話に出られるはずだが、知らない番号の着信なので拒否されるかもしれない。
 深刻に黙り込む先生と額に手をやる四鬼さんに傾げ、電話を耳に当てる。
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