約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される
「お礼を言わなくちゃいけないのはわたし、それとごめんなさい」

「なんで謝るの? 涼が溺れたのはあなたのせいじゃない。絶対目を覚ますわ。こんなに可愛い子を置いていったりしない」

 どうやら涼くんは溺れて意識が戻らないみたい。ますます目の前が真っ暗になる。
 おばさんの腕にすがり、わたしは涙を零す。

「夏目君は沖縄の病院で処置を受けてます。この後、お母様を病院へお連れする手筈を現在整えていますので」

 先生が状況を補足。けれど心配は要らない、とは加えなかった。

「わ、わたしも一緒にーー」

「あなたはここに残って下さい。部外者ですので連れてはいけませんよ」 

 同行を願い出ると読み切っていたのか、ばっさり却下されてしまう。

「そうね。部外者云々より、具合が良くないんでしょう?」

 おばさんも同意し、言葉を続ける。

「涼にはあなたの事を伝える。こんなにも心配してくれる子がいるんだって。それで、あなたのお名前を教えてくれるかな?」

 質問にドキリとした。おばさんは泣き出すわたしを慰めている間に少し顔色が良くなり、気力を振り絞っているようだ。

「わ、わたしは……」

 ここで浅見桜子と名乗るのは気が引けてしまう。わたしは偽物、本物の浅見桜子は宿泊訓練へ参加している。

「ん?」

 言い淀むわたしに傾げる。

「……さ、桜子です」

 それでも桜子と名乗る他なく、理由は桜子という名前が好きだから。おばさんがわたしを忘れてしまっても、桜子と呼ばれたかった。

「桜子ちゃん?」

「……はい」

「素敵な名前ね」

 てっきり本物の桜子と比べられると思ったが、おばさんはしなかった。それどころか、こう告げる。

「桜子ちゃん、あなたにとっても似合ってる名前だわ」
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