約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される
 高橋さんは運動場を見たまま、棘のある言い方をする。
 そして、教室内にはわたし達だけとなった。

「ねぇ、浅見さん。協力してくれない?」

「協力?」

 友好的な態度にはとても思えず、繰り返してしまう。

「今度の土曜日、夏目君に告白するって決めたんだ。協力と言っても浅見さんは邪魔しないでくれるだけでいいの」

 簡単でしょ、そんな顔でわたしを伺う。頬杖をつき鼻を鳴らす高橋さん。

「邪魔ってーー」

「にぶいなぁ、練習試合の応援には来ないでって意味。夏目君に頼まれていたレモンのはちみつ漬けはあたしが作る。浅見さんより美味しく仕上げる自信あるから」

 あまりの言われようにムッとして、こぶしを握る。その隙きをつかれ高橋さんにスケジュール帳を奪われた。

「ここのブランドの手帳って高くない? もしかして四鬼様に買ってもらったの?」

「違うよ! 返して!」

「ふふっ、これじゃあ、おしゃれな手帳がもったいないね」

 パラパラ捲り、埋まらない予定をバカにされている。けれど唯一の書き込みが彼女を喜ばすだ。

「土曜日は病院に行ったら家で大人しく休んでて。はい、どうぞ」

 悪びれる様子なく返却されて、高橋さんを睨む。
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