約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される
 内容は全部覚えていないけれど、夢の断片を拾い集める事で落ち着けるかもしれない。

 目を覚ましたらこんな環境に居て、ふわふわしてしまっている。

「時代劇みたいな、今よりずっと昔の景色で男女が桜を見ていました」

 血の件を覚えていたが言わないでおく。

「桜ですか。綺麗でしたか?」

「はい、とても。わたし、桜が大好きなんです」

「お名前も桜子さん、でしたね?」

 持参したファイルを開き、柊先生はわたしの受け答えを書き留める。

「みんなに愛される桜みたいな人になれますようにって。あはは、名前負けしてますよね」

 シーツを握り締めたわたしに、柊先生が首を横に振った。

「みんなに愛されるのもいいですが、1人にずっと愛されるのも良いと私は思いますよ。そして浅見さんにはそのお相手がいらっしゃいます」

 その時、またドアが開く。柊先生はさっと立ち上がり、訪問者へ頭を下げた。
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