声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
 しばらくたって私がラルスさまに抱きしめられていることに気づきました。
 どうしてかわからず私はおどおどと視点をずらしながら、ラルスさまの腕の中で動けずにいます。
 あ、もしかしてこれはあまりに私の動きがひどすぎて「やめろ」という合図でしょうか。
 なんて思っていたときに、ラルスさまが私の頭の上から声をかけました。

「なんてことをするんだい、ローゼマリー」

 ああ、やはりダメだったのですね。

「そんな心のこもったカーテシーを見せられたら、思わず感情が高ぶってしまう」
「(え……?)」
「きっと君のことだからさっきまで来月の社交界のことを気負いすぎて練習していたのだろう?」

 なんてことでしょう、ラルスさまには全てバレてしまっています。
 ラルスさまはゆっくりと私を解放して言いました。

「こんな可愛いカーテシー、他の男に見せないで」

 それは社交界に行く以上無理なのではないでしょうか。
 と思ったのですが、なんだか別の意味で考えてしまって、胸がドキドキしてそれで、頬っぺたが赤くなってきたような気がします。

 ダメですっ! 変なこと考えていると思われてしまいます!!
 咄嗟に顔を逸らした私でしたが、全然体の熱さはおさまってくれなくて、そのあとの文字を書く練習ではうまく字が書けませんでした──
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