声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
「我が妹を中傷するのはおやめいただきたい。母の形見を彼女につけてもらったのは私の意向です。ご意見があるのなら私が承ります」

 私をかばうように前に出てお話をされるお兄さま。
 お兄さまの言葉に皆様ばつが悪そうに下を向かれます。

「父が娘にすると決め、そして私もそれに賛成しました。我が妹は努力家でこの家に相応しい人間です。これ以上愚弄するなら、ヴィルフェルト家を敵に回すと思ってください」
「うぐっ!」

 皆様は気まずくなったのか、「申し訳ございません」と謝ってくださいました。
 振り返ったお兄さまは私に向かって微笑むと、手を引いてその場から連れ出してくれました。

 あ、なんだかとても綺麗な方がいらっしゃいます。
 会場から出ようとしたときに、私はふとその方が気になりました。
 私よりも少し大人な女性で、その方は私と目が合うと、不愉快そうなお顔をされてどこかに行かれました。

 真っ赤なドレスでとても綺麗な女性だな、とふと思いました──
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