声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
 子供の頃からお祈りをする時間が私はすごく好きでした。
 なんだか心が洗われるような、自分を見つめ直すことができて心を落ち着かせるのにとても適しているからです。
 ふう……。
 少し落ち着いたら先ほどの光景がまた思い浮かんできました。


『ラルス様、好きです』
『ユーリア』


 どこからどうみてもお似合いのお二人で、素敵だなと……おも……おもいまし……。

「──っ……」

 ふとポタポタと雨の雫に混じって、私の涙が流れているのに気づきました。
 修道院での生活でも泣いたことがなかったのに。
 苦しくて、苦しくて、胸が痛くて、もうどうしようもなくて……。

 お兄さまが好きで、でもお兄さまには恋人がいらっしゃって。
 それはとても喜ばしいことなのに、でもやっぱり苦しくて声にならない声で私は大泣きをします。
 嗚咽にもならない息の乱れがこの礼拝堂に虚しく響いて消えていきました。


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