声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
「なぜ会場を飛び出したんだい?」
「…………」

 まさか、お兄さまに恋人がいてショックだったとは伝えられず、黙ってしまう私。

「もしかして誰かに嫌なことをされた? それとも、もしかしてユーリアのことかい?」
「(こく)」
「彼女は恋人ではないよ。私に恋人はいない。だからローゼが私の傍にいることに遠慮しなくていいんだよ」

 私が兄の傍にいるのを兄の恋人に遠慮している、と思ったのでしょう。
 お兄さまはそのように言ってくださいますが、もし私から恋心を向けられていると知ったらどう思うでしょうか。

「ローゼ」

 お兄さまは私の顔を見て頬に手を添えると、優しいお声で言いました。

「大丈夫、私はローゼの傍から決して離れないから。何があっても必ず」
「(お兄さま)」

 たとえそれは妹としてのローゼマリーへの言葉だとしても、今はそれだけでいい。
 ただ、お兄さまの傍にいたくて仕方ないんです。

 いつかお兄さまが誰かを好きになって、そのひとの傍にいるその時まで。
 どうか、どうか、少しだけその声を聞かせてください──
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