声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
 雨は先ほどよりどんどん強くなっているようで、このままではローゼの身体も心配だ。
 会場を飛び出したとなればどの方向に向かったかなど到底見当がつかない。
 私は警備の者にどちらに向かったか聞き、探しに走る。

「ローゼッ!!」

 呼びかけながら探すも、やはり返事もなくただ雨の音だけが耳に届く。
 しばらく当てもないまま探していると、教会が見えてきて、よく見ると礼拝堂の扉が少し開いていた。
 もしかしたらこの中かもしれない。
 一縷の望みをかけて、私は礼拝堂へと入った。

「ローゼッ!!!」

 薄暗い礼拝堂の奥には少女の姿が合って、目を凝らしてみると確かにそれはローゼだった。
 私は安堵の気持ちと申し訳なさで彼女を力いっぱい抱きしめた。
 彼女の細い体が折れてしまうのではないかというほど強く、強く抱きしめる。

「ローゼッ! よかった……」

 私の腕の中に捕まえてやっと安心できて、それでいてまたどこかへ行ってしまうのではないかという不安も起こって来る。

「どこも怪我してないかい?」

 彼女はいつものようにこくりと一つ頷いて意思を示す。
 雨に濡れて冷えてはいるがどこも怪我していないように見える。
< 82 / 131 >

この作品をシェア

pagetop