声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
「ラルス様、好きです」

 その言葉を彼女が発した瞬間に不意を突かれて胸元に彼女が来る事を許してしまった。
 すぐに彼女を離れさせようとして肩に手を持っていきかけたとき、彼女の身体が小刻みに震えているのに気づいた。
 それで私の手は一瞬止まってしまい、そしてその時にふと目の端に誰かがいるのが見えた。
 そっとそちらのほうへ目を遣ると、そこにはローゼが呆然と立ち尽くすように私たちの方を見ていて、一瞬顔を歪めたと思ったら、そのまま背を向けて走ってしまう。

「ローゼッ!」

 私はすぐに彼女を呼び止めようとしたが、聞こえていないようで会場の外の方へと飛び出していってしまう。
 ユーリアの肩に手をやって彼女を自身から離すと、意外にも彼女は私を睨むような表情で見つめていた。

「行って」
「え?」
「あの子が大事なんでしょ? いってあげてちょうだい」

 それは彼女の強がりだということはすぐにわかったが、今はどうしてもローゼが心配でユーリアの言葉に甘えることにした。

「ごめんっ!」

 私は彼女に謝ると、そのままローゼを追いかけて走り出す。



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