声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
 そんな彼女の雰囲気が少しずつ変わってきたような気がしたのは、少し前の頃です。
 ローゼマリー様はなんだか楽しそうでよく横に音楽に乗るようにゆらゆらと揺れながらお勉強なさっています。
 毎日のお洋服選びもとても真剣な表情でお選びになるようになり、食事のときも嬉しそうにダイニングに向かわれます。
 そして、その理由がラルス様だと気づいたのは、彼女が食事中にずっと笑顔でラルス様を見ているからでした。

 ああ、恋をしているんだなあと女の勘で思いました。
 でもきっとローゼマリー様のご様子や性格から、兄にそのような気持ちを向けては失礼と思っているのでしょう。
 遠慮がちにラルス様をちらっと見てはすぐに目を逸らされ、小さく首を振っておられます。

 この恋が実ればいいと考えますが、そう単純なものではないのでしょう。
 おそらくラルス様もローゼマリー様のことを好きなのではないかと思います。
 しかし、ここで私がお手伝いをしても何も解決しないのです。

 恋は勝ち取ってこそ、幸せが待っています。
 私はローゼマリー様がこれからも幸せであるように、今はただ、そっと傍にお仕えして支えるのみです。

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