声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
 ラルス様が彼女のお名前を聞いてようやく彼女が『ローゼマリー様』だとわかりました。
 なんて可愛らしくて彼女にぴったりな名だろうと思いました。

 それから私は彼女の身支度や伝達係、そして声が出せないことの補助などをおこないました。

「ローゼマリー様、痛かったらいってくださいね?」
「(ふんふん)」

 彼女の髪を毎日梳くのですが、なんて真っすぐで綺麗な美しい髪なのだろうといつも思います。
 私は妹の髪をよく結っていたので、同じように結って差し上げると、大層お喜びになって嬉しそうに動きで表現してくださいます。
 何度も角度を変えながら鏡を見ては、私にくるっと一周して見せます。
 そんなに喜んでもらえると、メイド冥利に尽きますね。

 読み書きを勉強するようになってからはより早く起きて一生懸命に練習をなさっています。
 食事の前の少しの時間でも本を開いて、その本の字を真似て書いたりします。
 私の袖を引っ張って、この文字の読み方は?というように尋ねてきたので、「それは、『希望』と読みます」などと、お伝えをします。
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