敏腕秘書による幼なじみ社長への寵愛
「いろいろ話せてよかったよ。じゃあ、パーティーでまた」

俺はスツールから立ち上がると、とろんとした目つきの奥口を一瞥し、そそくさと会計を済ませる。

ハッとした彼女がバーを出ようとしている俺を猛スピードで追ってきた。

「お、沖田くん! もう一軒行かない⁉」

外に出た俺は、店先で腕を後方にグイッと引っ張られ、前のめりに立ち止まる。

早く帰宅して少しでも珠子のそばにいたいのに、捕まったりしたら面倒だ……。
などと心の中で悪態を吐いた矢先。

「沖田くんともっと話した……きゃ!」

正面に回り込んできた奥口が酔って足をもつれさせ、俺の腕にしがみつくことで転倒を回避。
その際、彼女の体を支えようとして前かがみになった俺と、俺を見上げる彼女の顔面が避けようなく接近した。

「平気?」

背中を支えて尋ねると、キラキラした目で奥口は俺を見返した。

「足もと覚束ないし、今夜はもう帰ったほうがいいよ」

極めて冷静に伝え、タクシーを呼んで乗せようと周囲を見回したとき。

俺は目を瞠った。

まさかこんなところに珠子がいるなんて、思いもしなかった。
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