敏腕秘書による幼なじみ社長への寵愛
ホテルに宿泊した三日後。

「まさか沖田くんから連絡をもらえるなんて思わなかった」

オフィスが入るビルからほど近い行きつけのバーは、席が半個室になっていて、薄暗く落ち着いた雰囲気だ。

「中学生の頃、密かに憧れてたからすごくうれしい」

柑橘系のカクテルを何杯もガブガブ飲み、俺の目の前で赤い顔をしているのはブルームで再会した中学の同級生、奥口真希だ。

「桜木社長からも、沖田くんを見習えって言われちゃって」
「その、桜木社長だけど……」

俺は声を潜めると、前かがみになって彼女の目を見つめた。
アルコールで存分に紅潮していた頬が、さらに赤みを増した気がするが関係ない。

俺は奥口から、桜木社長の情報を集めた。
普段よく飲みに行く店や居住地、人となりなど、世間話程度に聞き出した。

俺にとって女性とふたりきりで会い、距離を縮めるのは、珠子を守るための作業なのだ。

桜木社長は結構遊んでるらしい。
少々物騒な話も耳にした。用心しなければ。

「今度のオープン記念パーティーに来るよね?」

酒もすすみ、話も弾んで上機嫌な奥口は、テーブルに肘をついてうっとりと目を細めた。

「……ああ」

オープン記念パーティーには出店するテナントのほか、建設に携わったディベロッパーの関連会社や取引先、マスコミ関係者など、数多く集まる。
うちも参加して、顔を広めるには有用な場だ。
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