敏腕秘書による幼なじみ社長への寵愛
「はあ……」

ベッドの上で半身を起こすと、私はため息を吐く。部屋中に重い空気が沈殿していた。

玄関のドアが開く音が聞こえる。優介が来たんだ……。

私は起こされる前に準備をしようと、部屋を出て洗面所に向かう。
シャワーを浴び、メイクをして着替えていると、キッチンから優介が響かせる朝の音が聞こえてきた。

「おはようございます、珠子さん」

エプロン姿で朝食を準備してくれた優介は、気まずくて伏し目がちな私に対し、穏やかな笑顔を向ける。
なにがあっても変わらぬポーカーフェイスには脱帽してしまう。

「……はよ」
「珠子さん、昨日は」

ダイニングテーブルにサラダを置いた優介が言いかけたので、私はとっさに口を開く。

「よくもまあ、あんなに目立つところで」

ガタッと音を立てて椅子に座り、目も見ず、早口になった。
不機嫌だとバレバレなのがなんだか悔しくて、私はフォークをつかむとレタスをどんどん口に詰め込む。

すると、トーストが乗ったお皿をテーブルに置き、優介は私を見下ろした。

「俺にとってはいつものことですけど、珠子さんは控えてくださいね」

静かだけれど、どこか険のある声。

いつものこと、って……。
私は眉をひそめ、レタスを飲み込んだ。

「は? どうして優介がそんな制限するの」
「どうしてもです」

駄々をこねる子どもを黙らせるように言って、優介はキッチンでコーヒーの準備を始める。

……なんで私はダメなのよ。
どうして優介が決めるの?勝手すぎるし秘書の仕事の枠を超えている。

ていうか、人前での抱擁がいつものこと?女遊びしすぎて、感覚が麻痺してるんじゃないの?

奥口さんは遊びのうちのひとり?
それとも……まさか本気なのだろうか。

悔しくて悲しくて、心の中が深い霧で覆われモヤモヤする。
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