敏腕秘書による幼なじみ社長への寵愛
それから私は、プライベートでは優介を避けるようになった。

朝は優介が来る前にすべての準備を終え、会社に一緒に出勤するだけ。仕事が終わればまっすぐ帰宅。会話も必要最低限、仕事で必要なものだけ。

さすがにここまでコミュニケーションを取らないのは、優介と出会ってから初めての経験だ。
だから優介だって私が避けていると気づいているはず。

けれども彼は感情をおくびにも出さなかった。
別に私が避けようが、滞りなく仕事ができさえすればかまわないのだろう。

心の中に鉛のような思いを抱えたまま、表面上は平気な顔で数日をやり過ごし、ブルームのオープン記念パーティーの日がやって来た。
会場は高級ホテルのバンケットルームで、参加者は三百人は超えている。

私はクロークに立ち寄る優介を待ち、会場の入口前で大きな絵画を眺めていた。

「珠子社長」

声がした方を見ると、一際目立つ明るい茶色いチェック柄のスーツを着た桜木社長が立っていた。

「桜木社長、本日はお招きいただきありがとうございます。ブルームのオープン、おめでとうございます」
「こちらこそ、いらしてくださりありがとうございます。今日もとてもお綺麗ですね」
「そんな……。ありがとうございます」

桜木社長のお世辞を笑顔でかわす。

今日はパーティーなので、ちょっとオシャレして髪も巻き、黒いワンピースを着用してきた。
シンプルなデザインだけれど体に合ったラインが綺麗で、お気に入りの一着。

桜木社長が頭から爪先まで、ジロジロと興味深げに見てくるので、どこか変なところはないかと気になった。

「すごく素敵な絵ですね」

私は話題をそらすために、大きな絵画に目を向ける。
満開の桜が鮮やかな色と繊細なタッチで描かれていた。

「フランスの有名な画家に描いてもらったんです。普段は本社に飾っていますが持ってきました。珠子さんは絵画に精通していらっしゃるのですね」

桜木社長に目配せされ、私は肩をすくめる。

ただ話題をそらしたかっただけだ、なんてとてもじゃないけど口にはできない。
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