敏腕秘書による幼なじみ社長への寵愛
優介が運転してきた車の後部座席に乗せられて、シートに深く体を預け目を閉じる。
頭の中は依然ぐわんぐわんに揺れているし、定期的に吐き気が襲ってきてもう限界だった。

優介はなかなか私のそばを離れない。目を閉じているけど気配でわかる。

「珠子さん」

なぜ運転席に移動しないのかと不思議に思っていると、優介は隣に座り、逡巡した声で私を呼んだ。

答える気力がないので無反応でいると、不意に唇にやわらかい感触が宿る。

指?
いや、違う……。

肌に感じる風は吐息で、サラリと額をくすぐるのは前髪だ。
そして唇に触れた正体は優介の唇だとわかると、鼓動が強くなってきた。

私、優介とキスしてる……⁉

チュッと控えめな音を立てて唇から感触が消えてもなお、動悸は治まらない。

「俺か……ら、こんなことになるんですよ」

不服そうな優介の声。
口もとを手で覆っているのかくぐもっていて、途中よく聞こえなかった。

優介が運転席に移動し、車が発進する。
これが夢か現実かの境目がますます曖昧になり、気が遠くなってきた。

酔っ払ってるところに不意打ちでキスなんて、気まぐれにもほどがある。
私の思いも知らないで……。

心臓を落ち着かせるために呼吸を整えて、心地よい車体の揺れを感じながら、私は意識を手放した。
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