敏腕秘書による幼なじみ社長への寵愛
「はは、パーティーでの牽制は気のせいじゃなかったってわけか。しかもすごい、間一髪で助けに来るなんて、ボディーガードでもナイトでもなく、ヒーローみたいだな」
「馬鹿にしてますか?」
「いやまさか。感心してんだよ」

皮肉っぽく笑う桜木社長は、腕を組むとカウンターに寄りかかる。
そんな不遜な態度の桜木社長を見て、優介はピクリと片眉をつり上げた。

「パーティーと言えば、桜木社長は会員制のハプニングバーで行われている極秘パーティーにたびたび出入りしているそうですね」
「えっ!」

優介の暴露に、桜木社長はすかさず盛大な舌打ちをした。
秘密を暴かれ相当動揺しているらしく、腕を組み直したりと落ち着きがない。

「そ、それも奥口から聞いたのか⁉」
「あそこのバー、変な薬が流行ってるらしいですね。ネットの情報なので真偽は不明ですけど」

平淡な口振りの優介は、私が飲んでいたグラスを持ち、中身に鼻を近づけてスンと嗅いだ。

「これ、変なものとか入ってないですか?」
「は⁉ 俺は薬なんて知らない! たった一度、付き合いでパーティーに行っただけで! それを奥口に知られて……!」

興奮気味の桜木社長がチッと二度目の舌打ちを披露する。

「はあ、そうですか」

興味なさげに言い、優介はグラスをカウンターの上に置く。

「でも、もしもなにかあったら……。俺、この人のためなら他人を傷つけるくらい、別に造作ないんで」

言い終えた直後、ドン!という鈍い音が部屋中に響いた。

驚いて目を見開くと、優介の右手に叩きつけられたコンクリートの壁に、うっすらとヒビが入っている。

どんだけ馬鹿力なの?ちょっとは加減してよ……。

「それじゃあ、失礼します」

目を点にして微動だにしない桜木社長に一礼した優介が、脱力する私をひょいっと抱き上げた。

初めての浮遊感と優介の有り余る腕力に驚きつつも、恥ずかしいのでたくましい胸に顔を埋める。

軽々とお姫様抱っこされて、直立で閉口したままの桜木社長の脇を通り過ぎ、私は別荘を後にした。
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