あのスーツ男子はカクテルではなく土の匂い
Ⅱ
その日、私は銀座の、とある通りを午前中に歩いていた。
午後からお客様が来るとのことでお茶菓子がきれていたので、購入に来たのだ。
本来は新人ちゃんのお仕事だが、彼女は仕事が終わらず私にお鉢が回ってきた。
この仕事を新人ちゃんに取られたときほど、悲しかったことはない。
今日は、万々歳!
買いに行ける人ー?と聞かれたので、即座に私が買いに行きますと手を上げた。
ほくそ笑んでいる私にその後気づかなかった人はいないかもしれないけど……。
石畳を歩いていたら、植栽をしている人たちがいる。
ひときわ背の高い男性が何人かに指示して、その人達がカートから何かの苗をいくつかかごに入れて異動していく。
「ああ、そこにはこの苗を頼むよ。色はよく見て入れてね。同色になりすぎないように」
「城田さん、これどうします?」
「ああ、それは、少し剪定してから入れるから、はじいておいて」
「城田さん、ノースポールが足りません」
「マリーゴールドの大きくなったやつがそこにはじいてあるから、そこから選んでみて」
「城田さん、土が足りません」
「ああ、あとで持ってくるよ。隣の箱から植えておいて」