大食いパーティー、ガーデンにて奮闘する
プロローグ
「ぐっ……!」
 食いしばった歯の隙間から呻き声が漏れる。
 テオは、膝から崩れ落ちそうになる体を愛用の斧で支えてどうにかこらえた。

 伸び放題の髪を無造作に束ねていた麻紐はちぎれ、うつむいた拍子にグレイッシュブルーの髪が血の滲む傷だらけの頬に張り付いた。
 負傷と疲労でテオはフラフラだったが、大地に膝をつくことなど彼の矜持が許さない。

 視線を足元に落とせば影が長く伸び、夕日が空だけでなく大地もオレンジ色に染め上げていた。
 まもなく夕闇が訪れる。
 夜行性の魔物たちが活動を始めれば、弱りきって抵抗できないテオは拠点へ戻る前に襲われてしまうだろう。

 夢中で狩りをしているうちに拠点から随分離れた位置まで進んでいた。それに気づいて戻ろうとしたところで遭遇したのが、牙をむいてテオを威嚇する中型のレオリージャだった。
 白い毛並みのライオンに似た魔物だ。

 最後にこのレオリージャを狩って終わりにしようと斧を構えた時点では、苦戦することなど頭の片隅にもなかった。
 腕には自信があったし、もっと大きなレオリージャをひとりで倒した経験もある。だから余裕だと考えていたテオの誤算は、このレオリージャが子育て中だったことだ。
 凄まじい抵抗にあい、どうにか死闘を制したもののテオも無傷ではいられなかった。

 そして満身創痍で気力を振り絞り拠点への帰還を目指す。茶褐色の目は、まだかろうじて輝きを残している。
 もう少しだ! 俺ならやれる!
 己を鼓舞して顔を上げ、一歩前に踏み出そうとした時だった。

 突然テオの視界に飛び込んできたのは真っ白な毛の塊。
 それがテオの顔をボフっと覆い、衝撃で後ろ向きに宙を舞う。
 後頭部を強かに打ち付けたテオは、白い塊の正体がなんなのかわからないまま意識を手放した――。

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