愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください【コミカライズ原作】
「というわけで、社長、お花見しましょう!」

田辺さんが畳みかけるように促せば、社長はおもむろに視線をこちらに向ける。
バチッと目が合って自然と心臓がドキリと跳ねた。

「幸山さんもお花見したい?」

聞かれて困ってしまった。
私はイベント事に無縁だと思っているし、これまでもこれからもそうなんだろうと疑っていなかったので、社長が私に聞いてくる意味がわからなかったのだ。

「そりゃ、やえちゃんもお花見したいですよ。ねえ、やえちゃん。桜が綺麗だって教えてくれたのはやえちゃんですもん」

敦子さんが朗らかに笑う。
社長は私をじっと見る。

実は朝早く出勤する私は始業前に会社のまわりを掃除している。
それは社長も同じで、今朝も事務所裏で桜を眺めていたら社長にバッタリ出会った。
その時は何も言わなかったのだけど。

こぼれ落ちそうな桜の木の下でお花見をしたらどんなに素敵なことだろう。

「……えっと、お花見……したいです」

お花見って、具体的に何をするのか知らないけれど。
でもみんなで桜を眺められたらきっとワクワクして楽しくてたまらないんだろうなって思う。
夢みたいな話だけど。

社長は顎に手をやり、しばしうーんと考えると「じゃあ昼にやろうか」と呟いた。

「さっすが社長、わかってますね~。シート準備しておきます」

「やえちゃん、昼食の弁当、裏に届けてもらうように連絡しておいて」

「あ、はいっ」

「午前中は気合入れて仕事するぞー」

社長の一言であれよあれよとお花見準備の役割分担が決まっていく。
私は流されるまま、とりあえずいつも昼食で注文するお弁当屋さんに事務所裏に届けてもらうよう手配したのだった。
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