愛されていると勘違いしそうなのでこれ以上優しくしないでください【コミカライズ原作】
太陽が燦々と降り注ぎとてもいいお天気。
時おり吹く風も心地良い。

事務所裏の桜の木の下には大きなブルーシートが敷かれ、十二時のチャイムと共に人が続々と集まってきた。

ちなみに、全従業員が参加すると工場の稼働が止まってしまうため、現場作業員は夜桜を楽しむことになったらしい。

さすが社長、配慮を欠かさない完璧な対応だ。

「お弁当どうぞ」

「ありがとう、やえちゃん」

プラケースに詰められているお弁当を、来た人から順番に手渡していく。

「ほら、やえちゃんもここ座って」

「はい、ありがとうございます」

敦子さんに促されて靴を脱いでブルーシートに乗る。小学校の頃、遠足でお弁当を食べるときに広げたレジャーシートに似た感触がよみがえり懐かしい気分になった。

「では皆さん、牡丹桜に乾杯といきますか」

『乾杯~!』

それぞれがお茶を掲げお弁当を食べ出す。

「やえちゃんも、乾杯!」

「あ、はい」

持っていたペットボトルを差し出せば、敦子さんは自分のペットボトルをコンっと当てた。
初めてのことにワクワクと心が浮き足立つ。

「わ、今日のお弁当エビフライ」

「私、ここのお弁当の中で一番好きです」

「お弁当屋さんもわかってるわね~」

わいわいがやがやと皆の楽しそうな声が耳に心地良い。
桜の下で食べるお弁当は、いつものお弁当よりも格段に美味しく感じた。
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