優しく、ぎゅっと抱きしめて

「っ…悪い、寝ぼけてた」



そんな沈黙を破ったのは知賀くんの方。



「う、ううんっ…仕方ない…よ」



ぱっと腕を離して、私はベンチから下りる。



「…ほんとごめん」



知賀くんが流れるように頭を下げて謝るから、私はギョッとした。



「だから大丈夫だって…!ほら、顔上げて!ね?」



「でも……」



「何もこんなことで怒ったりしないよ。むしろ役得だったなぁなんて!」



って…待って待って?



私、今余計な一言言っちゃってない…?!



知賀くんがあまりにも落ち込んでるから、明るく振舞おうと思っただけなのに…。



自分が言ったことの恥ずかしに、徐々に頬が熱くなっていくのを感じる。



「……そうか。ならよかった」



………うん?



“ならよかった”……?

< 16 / 61 >

この作品をシェア

pagetop