愛しのディアンヌ
 私の声は掠れていた。ずっと視界は曖昧にぼやけている。少しでも気を抜くと意識が途切れそうで怖かった。

「それでは、ルイージのお父さんが危篤状態だというのも嘘なのですか? あなたとの婚約を赦すと言ったというのも嘘なのですね!」

「それは本当よ。私とルイージとの結婚が成立すれば何もかも上手くいくの。ルイージの幸せを願うならば、あなたが黙って身を引くべきなのよ! さぁ、彼の前から消えると宣誓しなさい」

「断ります」

 プライドの高いルチアがキリキリと眉を寄せて頬を叩いた。

「生意気な娘ね。何なのよ、その目は!」

 痛みに目を見張るが、怯みたくないのだ。互いに睨み合うが、ルチアの狂気に私はジリリと後ずさっていく。怖かった。

「お聞きなさい。今でも愛し合っているのよ」

 底知れない不気味さを感じて腹の底がヒヤリとなる。

「あなたは過去の人なんですよ! 今は、わたしと付き合っています」

「それならば、ディアンヌ、あなたが死ねばいい。あなたこそ過去の女となるといいのよ。そして、私は幸せな妻になるわ」

「……なっ」

 まさか。殺すつもりなの? 棚に置かれた殺鼠剤や鎌が目に入った瞬間、背筋がゾッとなる。
 毒殺、刺殺、絞殺。どんなふうにして殺されるのかしら。

 ルチアの高貴な顔には爆発寸前の狂気が貼り付いている。この人は本気なのだ。

「あなたの遺体は沼に投げ込まれるわ。永遠に見つからない。でも、あなたがルイージ以外の男と結婚するというのなら助けてあげるわよ。ギョームと結婚しなさい」

「馬鹿なことを言わないで!」

「結婚証明証の書類を提出すればいいのよ。ギョームが書類を作成しているの。あとは、あなたがサインをすればいいだけ。この国では死別以外に離婚できないのよ。ふふっ」

「嫌です。絶対に嫌です!」

「それなら死ぬしかないわね」

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