愛しのディアンヌ
 名指しされたディアンヌの目が凍りついている。それはそうだろう。いのまにか、ディアンヌの背後にギョームが立っている。もちろん、俺は呆然となる。あいつは銃口を、ディアンヌの後頭部に押し付けている。

 勝気なブルーノは反撃しようと身構えているが俺は低い声で制した。

「ブルーノ。下手に刺激しない方がいい。ブルーノ、そこから離れてくれ」

 逆らえば容赦なく撃たれてしまうかもしれない。。皆が言うように、俺は、女性を不幸にする疫病神なのかもしれない……。

「ルチア、よく聞け。いいか、落ち着け。落ち着くんだ。ディアンヌには手を出すな……。ディアンヌに罪は無いんだよ」

「いいえ。この娘が悪いのよ! あなたの目を覚ますにはこうするしかなかったのよ」

 ルチアの狂気は加速している。しかし、ディアンヌを拘束しているギョームの顔には戸惑いと悔恨の色が滲んでいるように見えた。おそらく、ギョームもこんなことをしたくないのだろう

 ルチアはハァハァと荒い呼吸を繰り返している。興奮しているのだろう。

 彼女は卓上の茶色の瓶を指で指しながら言う。

「瓶の中身は劇薬なのよ。簡単に皮膚を溶かすわ。本気でこの子を愛しているというのなら、あなたの顔を潰してちょうだいよ。それが出来るのなら、二度とこの小娘には手を出さないと誓う」

「えっ、俺の顔を潰す?」

 液体をまともに被れば大怪我を負うことになるだろう。悶絶するような苦痛を味わえと言われて困惑していた。

 俺は瓶を前にして顔をしかめる。皮膚が焼け付く痛みを想像すると背筋が凍りついてしまう。

 だが、大切な指を潰されるよりマシだった。

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