愛しのディアンヌ
「喘息の持病だよ、すぐに治まる。死んだりはしない」

 けれど、 ルチアの唇が変色している。ずっと苦しげに喉を押さえており血の気を失っている。ゼイゼイと妙な音を立てている。私はルチアの介抱をしようと近寄っていく。

「あんなのほっとけよ!」

 焦れたようにブルーノが叫んでいる。この子には理解できないのだ。

「いいから、ブルーノ、お台所に行ってお湯を沸かしてちょうだいよ。それから、ルイージは毛布をとってきて」

 しかし、ルイージはまだ警戒しているのか顔に緊張の色を残している。

「ディアンヌ、気を付けろ。ルチアは自暴自棄になっている。演技かもしれないぞ」

「仮病かどうかの区別は付くわ。彼女は、本当に発作を起こしているのよ。苦しんでいるの。だって、最愛の人を失ったんだもの……」

 私は介抱しようとして囁いた。

「ルチアさん、いいですか。ドレスの留め具や帯を解きますよ」

 気道を開けば楽になることだろう。私は彼女のコルセットを外す。ドレスの胸元の歩タンを外してリラックスさせていく。呼吸が楽な格好でいることが一番なのだ。

「ルチアさん……。すぐに楽になりますからね」

「……ほ、ほっといて……。し、死にたいのよ」

「いいえ。駄目です。あなたは綺麗で若いんです。時間はかかるかもしれないけれど、哀しみはいつか色褪せます」

「か、勝手なことをしないて」

 あなたなんかに慰められたくないと言いたいのだろう。睨まれてもいい。彼女を鼓舞するように手を握る。

「あたしも、父さんや兄さんが死んだ時は哀しくて心が壊れました。何を生きがいにすればいいんだろうって思いました。人間は弱いものなんです」

 そんな時は周囲の人に甘えればいい。当たり散らしても構わない。発作を和らげようと介抱していると、ルチアの表情が柔らかくなった。
 
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