愛しのディアンヌ
「ルチアさん、あたしのことを憎んでも構いません。それを糧にして生きていけばいいじゃないですか」

 我ながら言っていることが無茶苦茶だな。

「……大嫌い」

 彼女は拗ねたようにルイージを指差していく。

「私を捨てた男なんて嫌いよ。もう、帰ってよ。あなたを見切ることにした」

 すると、彼は、穏やかな顔つきで呟いていた。

「ルチア……。その方がいいよ」

「やっと気付いた。あなたなんて嫌いよ。無理にでも忘れてみせるわよ。ディアンヌを連れて帰りなさい。私は平気よ」

 そう言いながら半身を起こしていく。グシャグシャに乱れた髪と胸元を整えていた。

「無理しないで下さい。休むことが大切ですよ」

「お人好しね」

 どこかしら、声が落ち着いていた。憑きものが落ちたかのような顔になっている。

「お医者様が来られましたよ」

 そこに、ギョームが医師を連れてやってきた。もう、いいだろう。私達は屋敷を出ていく事にしたのである。

 連れてきた馬の手綱を引いているブルーノがニコッと笑った。

「あーあ、疲れたね。やっと家に戻れるね。お姉ちゃんが無事で良かった!」

 途中の農家で馬と松明を借りていた。恐い思いをしたせいなの身体がおかしい。手足が痺れている。

 私は馬に乗せられていた。ルイージとブルーノは歩き続けている。しんみりとした空気の中、ルイージがホツンと呟いた。

「ルチアは辛い現実と向き合ったんだな。俺も、逃げたままじゃいけない。ルチアに厳しい事をつき付きたからには、俺も現実と対峙するよ」

 私は、馬の背に揺られながらもたれてウトウトしていた。身体が燃えるように熱い。それなのに、私は軽くクシュンとクシャミをする。帰路に着きながらも寒気を覚えていたのだ。
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