愛しのディアンヌ
「お、おめでとうございます!」

「いいえ、安心するのは早いわよ。安定期までは油断禁物よね」


 そんなふうに言いながらも、マリアは満ち足りた顔をしている。私の周囲も動き出している。
 みんな、それぞれ、精一杯生きている。

「ただいま、ディアンヌ」

 そして。今日の午後、ルイージが二週間ぶりに自宅に戻ってきただ。予定よりも一週遅れての帰宅だった。
 
 私の体調も回復している。ルイージから聞きたい事があったが、まずは、長旅の疲れを癒してもらい。

 彼の為にお茶を淹れることにする。久しぶりに見るルイージは小麦色に焼けていた。

「遅くなってすまないね。俺は、初めて叔父の家で食事をしたんだ。泣いたり笑ったり騒がしい人達だった」

 白い歯を見せて快活に楽しそうに笑っている。

「叔父に財産を譲ると言った途端、叔父が俺を抱き締めて頬にキスの雨を降らせたよ。ビックリしたな。宴会が始まりワインを注がれて大変だった。島の祭りまで残っていろと言われて、帰るのが遅くなったんだよ」

 彼等は、ルイージを受け入れてくれたという。

「彼等は、領民と共に作物の栽培に心血を注いで生きてきた。それなのに、俺は興味を示さない。昔の俺は肩肘を張っていた。彼等の生き様を否定しているように向こうは感じたのかもしれないね」

 しかし、そういうわだかまりは無くなっているのだ。

 良かったわ……。

「出発する前に言いたかったんだけど、ルチアの件を公にして裁いてもらっても良かったんだよ」

「駄目よ。そんなことしたら、あなたがまた噂の的になるもの。それに、これ以上ルチアさんを傷付けたくないのよ」

「優しいね。君のそういうところも大好きだよ。これは旅の合間に書いた曲だよ」

「どんな曲?」

「こんな曲さ。ディアンヌのワルツというタイトルだよ」

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