愛しのディアンヌ
『人の心は刻々と変わるものなのですね。以前のルイージ様は音の世界に没頭しておられましたが、最近は違います』

 そう言ったのはルイージの父親の代理人のデニーロ氏である。今朝、ルイージは代理人と共に出発しているのだ。

 親族達と対面して、財産分与に関する真剣な話し合いをしようと腹を括っているのである。

 帰郷するる際、ルイージは言った。

『村に入った途端に、叔父達に暗殺されないかどうか心配だよ』

『そんな不吉な事は言わないで』
『はは、心配ないさ。俺は事前に手紙は出しているからね』

 総ての遺産を放棄する。お父様に会えたのだろうか。家族に拉致されていたらどうしよう。長い時間会わないでいると不安になってしまう。だが、帰ってくると信じている。

          ☆

 月末、私の学園生活は終わりを告げていた。昨日、無事、卒業証書と一級資格の免状を校長から受け取っている。

 二年間色んな事があった。特に、終盤、ルイージと出会ってからは、信じられないほどに色々な出来事が起きた。

 昨日の午後、カフェに向かうとクロエが私を抱きしめてくれた。この日の私は女の子の格好をしていた。

 皮肉屋のヤンがフッと意地悪く笑った。

「おまえが女なのは最初から知っていたぜ。ふん、賢い俺様は、おまえに騙されたフリをしてやったんだよ。おまえさんも、ようやく、一人前の薬剤師になれたんだな。おめでたいじゃねぇか。おまえへの祝儀に、おまえの大好きなルイージの記事を描いてやる。褒めといやるよ。つーか、実際のところ、奴の演奏は素晴らしいぜ」

 カフェを出てから、私はマリアさんの家に向かって挨拶をした、

 マリアさんは涙をこぼして喜んでくれている。

「おめでとう……。よく頑張ったわね。あのね。聞いて、あたし、生理が来ないの。調べてもらったら、医師に妊娠しているって言われたの」

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