愛しのディアンヌ
「うむ、良かろう。持って行くがいい。おまえさんへの報酬じゃ。これを売ればかなりの額になる。いらなくなったら売ればいいぞ」 

「へーえ、これが許可証なんですね」

「ドレスはおまえさんへ謝礼としてあげよう。どうかね。とお茶でも飲まないか? ほれ、焼き菓子を食うといいぞ。パイも用意しておいたぞ」

 空腹だったので素直にいただくことにした。おおっ、これは美味しい! 長老ったら、意外に気が効くのね。

「それじゃ、そろそろ失礼します」

 という事で、早速、警察署の受付カウンターに向かうと、思いがけないことを言われてしまったのである。

「まだ無理ですよ。ルイージさんを釈放するには時間がかかります」

 受付の事務員が黄ばんだノートをめくりながら確認している。周辺は混雑していた。無免許の娼婦達。スリを行なった老婆なとが取調べを受けている。

 激務のせいなのか受付の彼はゲッソリとやつれていた。

「ルイージさんには夕刻まで待ってもらわなければなりません。営業許可証が本物かどうかをチェックするのにも時間がかかります」

「そ、そんな……」

 紋切り型な対応なのだが、意地の悪い人ではないようだ。

 封筒の束を整理しながらも困り気味の顔になっている。

「近所のカフェや屋台でお茶でも飲んだらどうですか。コーヒーが美味しい店が、すぐ目の前にありますよ」

「いいえ。結構です」

 コーヒーを飲みたいような気分ではない。というか、そんなお金など持ち合わせていない。

「ルイージさんは無事なんですか?」

「そのことなんですが、昨日の夜中から囚人達は吐いたり下しています。汚い水を飲んだのかもしれません。ルイージさんは元気ですよ。独房で優遇されていますからね。彼だけは、ピンピンしていますから心配は無用ですよ」

 ええっーーー。何ですってーーーー。やだぁ。

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