愛しのディアンヌ
マダムの邸宅に泊まった翌朝、マダムは、俺の部屋に入ってきたのだ。しかも、マダムは全裸だった。倒れこむように俺に抱きついてきた。
『あたしを楽しませてくれるのなら、あなたのことを永遠に支援するわよ』
その代わりにベッドで奉仕するように媚態と微笑みで告げた。
『断ります。俺はピアニストなんだ』
彼女は顔を歪めてまさかという顔つきになった。それから、すがりついてきたが、俺は、顔を逸らした。
マダムは四十二歳。華やかな顔立ちの女性だった。マダムは河沿いの不動産を扱いながら、複数の娼館を経営している。懇意にしている官吏や政治家が多いという。煩雑な許可も、マダムならば、すんなりと得られる。
『馬鹿な子ね。あなたは私の力なしに何も出来ないのよ』
彼女は目を吊り上げて喚いていた。俺は突き放すように言った。
『あなたは俺の母親よりも年上なんですよ』
すると、バシャリと頬を打たれていた。高飛車な顔つきで切り刻むように俺に言い放ったのだ。
『勘違いしないでちょうだいよ! 客は、あなたの甘い容姿を愛でるのが好きなだけなのよ! あなたの音楽なんかどうでもいいの! れな坊やね。さぁ、鏡を見なさい……。あなたは、貴婦人に腰を振る愛玩犬なのよ。それが、あなたの天職なのよ』
『犬?』
いっその事、顔の半分を燃やしてしまおうか。そうすれば、純粋に音楽を聴きたい人達だけが来る。
「……馬鹿だよな」
絶望の余り馬鹿な事に囚われている。ふぅと絶望しながら独房の片隅で溜め息をつく。
いずれ、父の秘書が卑劣な交渉をしに来るだろう。
今回は長期戦になるかもしれない。俺は作曲を続けたい。演奏したい。創作の世界無しで生きられやしない。
俺を蝕む憎しみも悲しみも絶望も、何もかもを音に変えて表現してきた。曲が完成した時、世界は自分のものになったかのような誇らしさを感じる。
『あたしを楽しませてくれるのなら、あなたのことを永遠に支援するわよ』
その代わりにベッドで奉仕するように媚態と微笑みで告げた。
『断ります。俺はピアニストなんだ』
彼女は顔を歪めてまさかという顔つきになった。それから、すがりついてきたが、俺は、顔を逸らした。
マダムは四十二歳。華やかな顔立ちの女性だった。マダムは河沿いの不動産を扱いながら、複数の娼館を経営している。懇意にしている官吏や政治家が多いという。煩雑な許可も、マダムならば、すんなりと得られる。
『馬鹿な子ね。あなたは私の力なしに何も出来ないのよ』
彼女は目を吊り上げて喚いていた。俺は突き放すように言った。
『あなたは俺の母親よりも年上なんですよ』
すると、バシャリと頬を打たれていた。高飛車な顔つきで切り刻むように俺に言い放ったのだ。
『勘違いしないでちょうだいよ! 客は、あなたの甘い容姿を愛でるのが好きなだけなのよ! あなたの音楽なんかどうでもいいの! れな坊やね。さぁ、鏡を見なさい……。あなたは、貴婦人に腰を振る愛玩犬なのよ。それが、あなたの天職なのよ』
『犬?』
いっその事、顔の半分を燃やしてしまおうか。そうすれば、純粋に音楽を聴きたい人達だけが来る。
「……馬鹿だよな」
絶望の余り馬鹿な事に囚われている。ふぅと絶望しながら独房の片隅で溜め息をつく。
いずれ、父の秘書が卑劣な交渉をしに来るだろう。
今回は長期戦になるかもしれない。俺は作曲を続けたい。演奏したい。創作の世界無しで生きられやしない。
俺を蝕む憎しみも悲しみも絶望も、何もかもを音に変えて表現してきた。曲が完成した時、世界は自分のものになったかのような誇らしさを感じる。